吉田寮への退去通告に対する抗議文

 

京都大学総長 山極壽一殿

厚生補導担当副学長 川添信介殿

 

京都大学当局(以下、当局とする)による吉田寮への退去通告に対して抗議する。

抗議する点は以下の5つである。

確約を反故にし、一方的な決定によって寮自治を侵害している

学生の福利厚生を損なうものである

自治会の存在を否定し、個人単位で圧力をかけている

建設的な話し合いを図っていない

⑤退去通告自体が妥当性を欠くものである

 

確約を反故にし、一方的な決定によって寮自治を侵害している

 吉田寮は学生の話し合いと意思決定により寮運営を行ってきた自治寮である。自治・自主運営によって、入寮資格を自主的に拡大し、年齢・性別・国籍を問わず京都大学の学籍を有する者に住居を提供してきた。こうした過去の経緯からも、寮は当事者による意思決定によって運営されるべきである。「熊野寮自治会と京都大学の基本確約」においても、「両者は学生の居住する熊野寮の運営に関しては、当事者であり主体的にその責任を果たす学生の自治によることが最良であることを確認」している。

 しかし、今回の退去通告は、吉田寮自治会による意思決定を蔑ろにしている。加えて、話し合いによる合意形成を図らない姿勢は吉田寮自治会と当局が結ぶ確約の第1項目に書かれている「吉田寮の運営について一方的に決定せず、自治会と話し合い合意のもとに決する」への明白な違反と思われ、同じく当局と確約を結ぶ一自治会として看過することはできない。

 

学生の福利厚生を損なうものである

 当局は全吉田寮生に対し、20189月末日までに吉田寮から退去することを通告し、代わりの住居として代替宿舎の提供を提示している。しかし、代替宿舎には吉田寮生の全員が移れるわけではなく、当局が修業年限や正規・非正規といった基準で選別している。また、新入生など新たに安価な寄宿舎を必要とする人に対してはひらかれていない。代替宿舎は吉田寮が果たしてきた学生の福利厚生の役割を代替しているとは言えない。

 経済的事情等により安価な寄宿舎を必要とする学生や、親からのハラスメントやストーカー被害を避けて集団生活を必要とする学生もいる中で、今回の退去通告は学生の福利厚生を損なっており、学生の福利厚生を担う一自治会として看過することはできない。

 

自治会の存在を否定し、個人単位で圧力をかけている

当局は20184月から、寮費の支払いは個々の吉田寮生が個別に窓口に来て行うように通知を出し、自治会全体としての寮費支払いを拒否している。また、2018914日に、吉田寮生個人やその実家に対して個別に退去を迫る文書を送付し、個人単位で直接圧力をかけている。これは、自治会の役割を否定し、学生という弱い立場の個人への管理・統制を強めるものである。

個人では当局と対等な交渉を行うことができないため、寮生は自治会という組織を作り、寮費の金額の交渉等を行ってきた。よって、自治会の存在を否定し、個人に対して直接圧力をかける行為を一自治会として看過することはできない。

 

建設的な話し合いを図っていない

川添信介副学長は、「吉田寮自治会が団体交渉を希望した場合は、それに応じる」という確約があるにもかかわらず、就任以来、団体交渉を拒否してきた。その後、吉田寮自治会は当局の提示する条件を受け入れ、20187月から2回の少人数交渉に応じたが、その少人数交渉も当局によって2018914日に一方的に打ち切られた。

熊野寮自治会は、当事者が全員参加でき、当局からの恫喝や対面での圧力のリスクも最小限に抑えることのできる団体交渉という交渉形態が、自治会と当局との建設的な話し合いには最も有効だと考えている。実際、過去の団体交渉では話し合いによって補修案が合意される段階にまで至った。一方で、報道によると、2018713日、830日に行われた少人数の交渉では川添副学長による恫喝が行われた(※1)ほか、吉田寮自治会からの質問に返答がなされないまま打ち切られた。

 

⑤退去通告自体が妥当性を欠くものである

居住を継続しながらの補修工事が現実的に可能であるにもかかわらず、完全退去ありきで、その後の補修計画も示さない現在の当局の姿勢は、過去の吉田寮自治会と当局の建設的な話し合いを反故にするものであり、妥当性を欠いていると言わざるを得ない(※2)。耐震性の不足は明白であるが、過去の話し合いの継続と補修の早期実行という選択肢が排除される理屈はない。

また、当局は2015年に竣工した吉田寮新棟についても退去を要請しているが、その耐震性には何ら問題が指摘されておらず、退去の要請にも全く正当性がない。

 

以上5点を以て、熊野寮自治会は、吉田寮への退去通告に対して強く抗議する。また、学生の福利厚生を守り、寮の自治・自主運営を尊重する立場で、退去通告を撤回し、確約を守り、吉田寮自治会との建設的な交渉を再開することを要求する。

 

(※1)大学側は「合意を形成するための場ではない」と強調。出席した副学長が声を荒らげて「恫喝(どうかつ)」する場面もあったという。[中略]学生担当の川添信介理事・副学長が「けしからん」と怒鳴り、「恫喝(どうかつ)と取っていい」と発言する場面もあったという。(201883日京都新聞オンライン)

 

(※22002年より吉田寮自治会と当局は現棟補修についての議論を積み重ねており、2012年及び2015年には現棟補修が早急な老朽化対策のために有効な手段であることが確約書にて確認されている。

さらに2005年の現棟耐震性調査では「補修により地震発生時に建物が倒壊しない十分な強度を得られる」という結果が出ており、2007年には吉田寮自治会と当局の間で合意された補修案に基づき、寮生が実際に居住棟の一部を空け、居住を続けながらの補修工事に備える段階まで話が進んでいた。

また、2014年以降、吉田寮自治会はさらなる具体的補修案として「京都市条例案」を提示しており、20153月時点で当時の厚生補導担当副学長がこの案に合意する段階まで議論が進んでいた。しかし、2015年の川添副学長就任以来、当局は補修案について「検討中」と繰り返し、話し合いの場も設けられないまま2年以上に渡り老朽化対策は停滞していた。

 

京都大学熊野寮自治会

 

2018927